【コラム】ジャマイカの医療事情

JICAジャマイカ支所で、在外健康管理員として勤務していた青野浩長さんからの投稿です。日本と大きく異なるジャマイカの医療事情についてのコラムです。

是非ご覧ください。

皆さま、こんにちは。国際協力機構のJICAジャマイカ支所で、今年の8月末まで在外健康管理員として勤務していました、青野浩長と申します。私は看護師であり、ジャマイカ国内の医療情報を収集して情報提供をすると共に、JICA関係者が体調不良の際には相談を受け、必要時には受診や入院時のサポートをする等の健康管理業務に携わってきました。今回は、コロナ禍も含めたジャマイカの医療事情などについてお伝えしようと思います。 

私が派遣されたのは、2021年5月のコロナ禍の真っ只中でした。当時は感染状況や新種株の発生により世界各国がそれぞれの対応に追われていましたが、ジャマイカも例外ではなく、新たな感染の波が発生する都度出入国の規制が変更になったり、夜間外出禁止令による行動制限がなされたりなど、感染状況に合わせてルールが頻回に改定されていました。

 感染者および感染疑い者は、公共病院でのみ治療や入院が許可されていたので、感染流行時には首都のみならず地方の公共病院は常に患者で混み合っていました。ある地方病院では救急外来のベッドが足りないばかりでなく、酸素までが不足する事態に陥ったことから、酸素ボンベを患者同士で共有しあうという状況も発生していました。また、入院ベッド数を優に超過するほどの患者が国内に溢れる事態になった際には、入院治療ではなく自宅療養を強いられる患者もおり、深刻な状況が継続したこともありました。

日本で使用されていた重症化を抑える効果のある薬剤はジャマイカでは流通しておらず、症状が悪化した場合のリスクは大きくなる可能性がありましたので、危機感を強く覚えたことを思い出します。しかしながら、関係者が感染したことはありましたが、重症化することなく経過したことは本当に幸運だったと、今になって振り返ります。

 先々月の投稿者の青木さん、先月の投稿者の武田さんをはじめとし、コロナ禍終息後にジャマイカへのボランティア活動の再開を待ち望んで日本で待機をされていた方も多くいました。再派遣までにかなり長い時間が掛かってしまいましたが、JICAのメイン事業の一つとなるJICA海外協力隊派遣が再開されることができ、本当に良かったと感じています。現在までには徐々に隊員数も増加しており、ジャマイカの発展のために様々な分野でボランティア活動をする皆さまの、今後の活躍を期待しています。

JICAジャマイカ支所内にある JICA Jamaica のタイムライン

 ジャマイカ国内で医療の情報収集をしていく上では、実際に現地に赴いて直接医療現場を確認し、また医療関係者から直にお話を聞くことが非常に大切でした。訪問先は公共病院だけでなく、民間の医療機関も視察に行く機会が度々あり、ジャマイカ国内の医療機関や医療の実際を目の当たりにすることが出来ました。

観光地であるMontego Bayは多くの旅行者が訪れることもあり、また首都Kingstonは海外からのビジネスパーソンが渡航しますので、公共病院および民間の医療機関はかなりのレベルまでの医療提供が可能となっています。また首都にある医療施設では、海外で高度な先進医療技術を修得した医師が、その医療を提供しているというニュース記事を時折見かけることもありました。

 しかしながら、やはりそれは裕福な方々に向けてのサービスが多く、金銭を支払うことで良い医療が受けられるという現状です。

 ジャマイカ人は公共病院では無料で医療提供を受けることが出来ますが、公共病院の待合室や待機場所には常に人が溢れており、受診や治療を受けるまでに長い時間が掛かります。時には、公共病院を受診したが十分な治療や医療サービスを受けられなかった、という悲しい話も耳にすることがあり、貧富の差によって受けられる医療体制や質が変わってしまうという状況を非常に痛ましく感じていました。

 ジャマイカ政府や保健省も医療のサービスや提供体制の拡充、質の向上を目指して日々施策を行っていますが一朝一夕にはいきません。今後はそのギャップが縮まり、誰に対しても公平で迅速な医療が受けられる状況が一日でも早く訪れることを切に願っています。

JICA海外協力隊員の永村氏の活動先へ訪問した際の写真。左から Parish Manager(名前は忘れてしまったので必要でしたら永村隊員に聞きます)、永村隊員、元ボランティアコーディネーターの芦原氏

 ジャマイカは観光客が多く訪れますので、今後も感染症が輸入する形で入ってくることが考えられますし、日本では馴染みのないデング熱やチクングニヤ熱など、蚊を媒介する感染症に罹患する可能性もあります。残念ながらジャマイカでは日本と同様の医療提供を受けることが出来ないかもしれず、病気だけでなく事件や事故に巻き込まれることなど、何か起きた際には大きなリスクを伴うことがあるかもしれません。それらの可能性を考慮すればきりがありませんが、楽しく健康に過ごしていくためには、やはり自己の健康は自分自身で管理していくという意識を持っていただくことが大切なのではないかと感じています。

 ジャマイカに滞在される皆さまが今後も健康に過ごされながら、より良いジャマイカ生活を送り、元気に活躍されることを祈っています。

St. Elizabeth Parish の Black River の近く、海の上のレストラン『ペリカンバー』にて