【コラム】ジャマイカ観光振興の発展に貢献 塚元夢野さん

皆さん、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。

山々が新緑に輝き、足を止め見とれてしまうほどの美しさになりました。

さて、本記事ではコラム第3弾をお届けします。今回は、青年海外協力隊観光隊員としてご活躍された塚元夢野さんです。

とても面白い内容となっております!(「〜せねばならない」という価値観を見直すきっかけになるかも) ぜひ最後まで読んでみてくださいね。

コラム

「でも、日本にはカローシがあるんでしょ?」

ジャマイカの小さな港町ファルマスにあるマーケットにて、顔なじみのおじさんは言いました。この言葉は今でも覚えています。

この言葉を聞くまでの私は、ジャマイカの人々が約束の時間を守らず遅れて行動することに怒り、ちょっと悲しくも感じていました。

2016年からの2年間、青年海外協力隊としてジャマイカに暮らし、クルーズ船の港町ファルマスのコミュニティツーリズムの促進を行っていました。職場で日本人は私一人。赴任当初は「何ができるかな?」とワクワクし、意気揚々と関係者との視察を約束。前日の夜遅くまで下調べをします。しかし当日の待ち合わせ場所にいるのはいつも私一人。場所を間違えたかな?と不安になりながらウロウロ待つこと30分。ようやく1人と合流し一安心、全員が揃う頃には2時間近く経っていることも珍しくありません。

日本の、特にビジネスシーンでは約束の時間を守ることは、相手への敬意を示す最低限のマナーと心得ていました。 ましてや鉄道会社に勤務し、1分の遅れも許されない世界で社会人生活を送っていた私にとって、時間を守ることは当たり前のこと。「約束の時間を守ってもらえない=自分のことを蔑ろされている」と捉えては日々イライラし、「一生懸命やっているのになぁ」とヘコんでいました。

やり場のない感情を抱えたまま、いつものマーケットでプランテン(大きなバナナのようなもの)とカラルー(栄養たっぷりジャマイカ版ほうれん草)を買い、マンゴー売りのおじさんとの雑談の中で私はついグチを言い始めました。

「日本なら約束を守るのは当然だよ!時間に遅れることを『ジャマイカンタイム』なんて言って笑っているけど意味わからん。この国はなんでそんなにルーズで適当なの?」

そこでおじさんから言われたのが冒頭の言葉です。 「でも、日本にはカローシがあるんでしょ?」

過労死。 この言葉がKaro-shiとして(まるでSushiやSamuraiのように)遠いジャマイカのマンゴー売りのおじさんの耳にまで届いているという事実。キョトンとしてしまい、何と返答したかは覚えていません。

日本の「きっちり時間通り」文化は素晴らしい反面で、生き方に余白がないのかもしれない。当然〜すべき、というきっちりした観念が幸せを覆い隠し、時に過労死にまで至るようなプレッシャーを生んでいるのかもしれない…。

それに比べてジャマイカはどうだろう?

高い殺人率、様々な犯罪、貧困の連鎖…多くの問題を抱えるジャマイカですが、一人一人の生き方としてはそこまで悪くないのかもしれない。少なくとも、ちょっと共に暮らしただけの日本人が「ルーズで適当」と一方的な価値観から評価するようなことではない。

そのように考えるようになってから、私の中での「ジャマイカ」が変化していきました。

時刻表なんてないバスを待ちながらご近所さんと談笑し、ルートタクシー(乗り合いの安い移動手段)の雑な運転に揺られながら鮮やかなブルーの海岸線をぼんやり眺め、オフィスで急に歌いだす上司の美声に耳を傾け、同僚の波乱万丈な恋愛遍歴を聞いて「わぉ、あなた日本じゃ生きていけないよ?(笑)」と笑い合い、約束事は遅れる前提でゆとりある予定を立て…。

こうして少しずつ「ジャマイカンタイム」を受け入れるようになりました。

人生の中でたまにはゆったりと生きるタイミングがあってもいい。私が約束の時間に遅れる側になったとしても絶対にジャマイカの人々はNo problem! と許してくれるでしょう。ピリピリと批判するよりも、お互い様の気持ちで受け入れると心が楽になりました。私がこれまで生きてきた考え方も大切だけど、他の国で生きてきた誰かの考え方も同じくらいに大切で、正解はありません。

ジャマイカから帰国して6年が経つ今は、ジャマイカで得た新しい考え方も私に根付きつつあり、思い通りにならないこと(特に育児や仕事)を前に「まぁいいや、じゃあ、どうしよっか?」と受け入れながら生きています。

きっと今の私があのマーケットでおじさんにまた会ったら、「ジャマイカンタイムって割といいね」なんて言うんでしょうし、おじさんも「ユメノを見てると日本にはカローシなんてないかもな?」と思い直すのかもしれません。

青年海外協力隊・観光職種としての活動記事はこちら↓

https://www.jica.go.jp/Resource/publication/mundi/1807/ku57pq00002aibma-att/07.pdf